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‘札幌R&Dセンター’

R&Dのデスクを見学させてもらった時に、不思議な植物を机の上に置いていたのが、橋本航平さんでした。「苔テラリウムの元気がないので、光を当てているんです」と教えてくれ、とても心の優しい方なのだろうなと思いました。

ものづくりの根幹に関わることができる喜び

2022年5月に岩谷技研へ入社したという橋本航平さん。函館高専の機械工学科出身です。岩谷技研は3社目となり、最初はテレビの設計などのものづくりの仕事をしていましたが、次の会社では、パソコンに向かってシミュレーションをし、業務効率化のための解析関係の仕事をしていました。

やっぱり自分は、手を動かして作るのが好きだと思い「また作る仕事がしたい」という気持ちになっていた頃、おもしろい会社があるなと岩谷技研のことを知ります。宇宙にも興味はある、夢がある仕事だと惹かれるものもあり、採用試験を受けてみました。

設計、企画、プランニングをし、実際に作って、動かしてみる。思い描いたものができあがった時が楽しいと笑顔でお話ししてくれました。

そんな橋本さんが作ったものを見せてもらいましたよ。

 

天井弁の開閉を制御するスイッチボックス

今回、見せていただいたのは開放弁の開閉動作を遠隔操作する装置です。無線基盤の中の電気の部分は山本さんが担当し、電子課として共同作業で開発しました。

「このスイッチボックスから電波を無線で飛ばすのですが、動作がわかりやすいようにLEDで光るようにして、開いた時には、音が出るようにもしたんです」

岩谷技研のロゴも入っていて、未来的なデザインがかっこいいですね!

「最初は余力がなく、まずは動けばいいと考えて、デザインは度外視してました。
でも、テレビの取材なども入ることがあるので、写った時にかっこいい方がいいと考えて、デザインにもこだわるようになりました」

使いやすさのほかに、カッコ良さも意識してデザインを考えるようになったのは、岩谷技研の制服や、江別気球工場内の機能的かつ美しいデザインやカラーなどの影響もあるのだとか。

 

そもそも、橋本さんご自身も木工品を作るのが趣味で、自宅に工作部屋があり、希少木材を使って作ったペンや指輪などの作品の写真も見せてもらいましたが、どれも素晴らしく美しいものでしたよ!

ところで「自宅に工作部屋があるなんて、すごくないですか?」という話から、橋本さんが気にしていることの話題となりました。

 

福島研究所の立ちあげのため福島へ行く

実は11月末から福島県の南相馬市へ行くことになった橋本さん、これから本格稼働する福島研究所をものづくりの拠点とすべく、立ち上げに尽力されています。

福島では、事務所に3Dプリンターやレーザー加工機などの工作機械関係の機材や工具を買ってもらうことをお願い中なのだと話してくれました。

「機材設備にかなりのお金がかかるので、見合った成果を出さないと!」と気持ちを引き締めているのだそうです。

お話を伺って思わずこちらもブルっと気合が入ってしまいました。きっと良い仕事をされると思いますので、岩谷社長!機材や工具の購入をよろしくお願いします!!

R&Dセンターの機能が江別気球工場に移され、工場内の一角に開発部門のメンバーのデスクが並べられています。どんな方がどのようなお仕事をされているのか?
まずは、実験責任者である及川明人さんにお話を聞きました。

 

隊長と呼ばせてください!

取締役の仲さんから「実験隊長です」と紹介され、役職に隊長という肩書きがあるとは、さすが先進的な岩谷技研と感心し、「隊長!よろしくお願いします」と挨拶すると「隊長ですか?」と若干困惑気味な及川さん。どうやら、隊長と呼んでいるのは仲さんだけで、正式には「実験の責任者です」と自己紹介していただきました。

それでも、「責任者」という肩書きよりも「隊長」という呼び名がカッコいいと思うので、隊長とお呼びしたいと言うと、多少苦笑いのような表情を浮かべながらもOKしてくださいました。

それでは隊長!さっそくですが実験について教えてください!!

 

実験で一番大切なことは、それは…

岩谷社長や仲さんの講演会で「気球で宇宙旅行を実現します」と言葉で説明しても会場のみなさんは半信半疑な様子で聞いているのですが、「できますよ、ということを見せるのが一番いい」と岩谷社長が言うように、実験の様子のVTRを観ていただくと、百聞は一見にしかず!気球で本当に宇宙に行けるんだ!と、皆さんの表情がみるみる変わっていきます。

実験は、開発した装置が正しく作動するかどうか、理論や仮説が正しいかどうかを確かめるだけに留まらず、岩谷技研の行っていることを、多くの人にわかりやすく伝えることもできる重要なものなんですね。

 

さて、そんな実験のVTRを観ていると大勢のスタッフが関わり、作業をしている様子が映し出されていますが、実験を行う上で、大切なことというのはやはり「チームワーク」なのでしょうか?

「チームワークも大切ではあるのですが、一番大事なのは事前準備なんですよね」と及川隊長。事前準備がしっかり行われたかどうかが実験を成功に導く鍵だということです。さらに、その事前準備を今までの実験では、及川隊長がほぼ一人で行っていたというので驚きです。

回を重ねるごとに実験の規模が大きくなってきているので、経験や技術を他のメンバーに伝えていく必要を感じていて、それが今後の課題であると考えているのだそうです。

 

実験、実験…、ストレス解消は子供と遊ぶこと

2022年は、無人の気球を高度30キロまで飛ばし地上との無線通信を検証する実験、高度100メートルの有人飛行など、重要な実験がたくさんありました。

実験の準備をし、実験して、実験後の後処理をし、さらに報告書を作成する。実験後はできるだけすぐに報告書を上げたい、一ヶ月も二ヶ月も経ってしまっては、実験の鮮度が落ちてしまいます。

なので、忙しくてゆっくり休む暇がないのが辛いところだそうですが、休みの日は、7歳と5歳のお子さんと遊ぶのが楽しくストレス解消になるのだそうです。

岩谷技研で働く前は、静岡で会社勤めをされていましたが、元々は北海道石狩市の出身で、子育てのために北海道に戻ってきたかったという優しいパパさんの笑顔を見せながら、お話ししてくれました。

 

成層圏への有人飛行の実験

ところで、冬の間は実験の回数が減るのでは?確か、気球を海に着水させるのに適した季節は5〜6月、9〜10月だと聞いたことがあります。

「気球を飛ばすには、天気や風待ちなど、自然環境に大きく左右されますが、冬だと北海道の場合は畑が雪に覆われ、気球を雪の上に降ろしてOKとなるので道内で実験ができるんですよ、冬はとにかく寒いですけどね」と教えてくれました。

2023年は、高度25キロへの気球の有人飛行の実験を行います。25キロ辺りになると真空状態の氷点下80度となり、地上との温度差は約100度となる過酷な環境になります。

岩谷技研では、大きな圧力がかかっても耐えられる繊維強化プラスチック製気密キャビンを開発しましたが、これからさらに有人飛行実験を100回は行う予定で、安全性の精度を99%以上まで高められたことを確認するのだそうです。

隊長、今年も忙しくなりそうですね・・・

「大変ですよ〜」と言いながらも、実験を重ねる度に宇宙旅行の実現へと近づいていっている、そんな確信とやりがいを及川隊長の表情から感じ取ることができました。

開放弁の開閉を遠隔操作する装置の電気の部分を担当した、電子課 課長山本一将さんにお話を聞きました。

 

札幌で宇宙開発に携われるなんて

2021年12月に入社されたという山本さん。前職ではパソコンの電子機器を設計していました。その時に自社製で無線のマウスを作ったこともあるので、「今の仕事にその経験を活かすことができている」と感じています。

山本さんは、北海学園大学電子情報工学科を卒業後、ずっと札幌で働いていました。

安定したお仕事をされていたなかで、岩谷技研の求人を目にした時に「札幌で宇宙開発に携われる会社があるなんて!」と、宇宙の仕事は東京でしかできないと思っていたのに、自分も宇宙開発に関われるかもしれないと新しいチャレンジをしてみたいという気持ちになりました。

「学生時代も学科に関係なく天文学の講義を取って受けていたんですよ」というくらい宇宙が好きだという山本さん。お子さんの名前にも「星」の漢字が入っていて、ご自宅にも天体望遠鏡があるのだそうです。

まだ、岩谷技研に入社できるかわからないタイミングでしたが、岩谷社長の絵本「うちゅうはきみのすぐそばに」を購入し、「お父さんの働きたい会社の話だよ」とお子さんたちと一緒に読みました。小学2年と年長の二人のお子さんは「風船で宇宙に行けるわけない」と言ったそうですが、お父さんが岩谷技研で働き始めるようになった今は、ときたま「気球にはいつ乗れるの?」と聞いてくるのだとか。

山本さんは「子どもを気球に乗せる」ことを目標に仕事に励んでいるのだそうです。

 

開発・設計は自分の子どもを乗せている設定で行う

大好きな宇宙と関わり、お子さんの夢を叶えるために新しいものを作る仕事は、おもしろくて、毎日楽しいと感じられているのでは?と聞くと、

「仕事をおもしろいと思っているうちは、まだ追い込みが足りていないという以前の会社の上司の言葉を思い出すことがあります」と、今の仕事はおもしろいと感じていると同時にやりがいと大きな責任を感じていると話してくれました。

無線通信のノウハウの蓄積や経験のベースがあったから、今回の開発も取り組みやすいと思ったそうですが、生半可な考えではダメだと考えています。

この機械で行う開放弁の開閉の動作は、上空に浮かんでいる気球を満たしているヘリウムガスをゆっくりと外に逃がす役割を持ち、気球を地上に戻す働きをします。

開放弁を遠隔操作する中で、例えばパソコンの無線のマウスなら2〜3秒動かなくても、あれ、調子が悪いかな?程度で、さほど気にしないかもしれませんが、人の命を乗せている気球で、2〜3秒動かないことを「まぁいいや」で済ませるわけにはいきません。安全面で迷った時は、「これで子どもを乗せられるか?」と自問自答するのだそうです。

 

無線?回路?魔法だと思っていました

開発という仕事では、お手製で機械を作ってみて動くことを確認するという作業を、失敗がないように何度も行うのだそうです。

「まず回路図をお絵かきして、CADのソフトで書いたものを、自分たちでハンダづけしたものがこれです」と、機械や理数の知識がほぼない取材陣にもわかりやすいようにやさしい言葉を選んで説明してくれた山本さん。

無線のマウスもそうですが、テレビのリモコン、照明のリモコンなど無線で操作できる機械は色々あります。中身の仕組みのことまで考えたこともなく、当たり前のように便利に使っていましたが、よく考えると、身の回りには人間が頭で思い描いたものを作り上げて、実際に使っているものばかり!山本さんの説明を聞いて、魔法のように動く機械も全て人間が作ったものだった!と、改めて気がつき感動しました。

我々一般人から見たらどれも魔法にしか見えない一つ一つの技術が積み重なって、それが岩谷技研の気球、そして宇宙へ繋がっていくのですね。

「彼は、岩谷技研で一番いい体格をしています」と仲さんに紹介いただき、思わず見上げてしまう身長180センチのスポーツマン体型の森本千誠さん。入社の経緯と今の仕事についてお聞きしました。

 

経歴や才能よりも行動する人が求められている

熊本出身の森本さんは、小学3年生から柔道を始めて大学時代は柔道部の主将も務めました。現在も柔道部のコーチをされています。北大では、鉄やアルミの研究をしていたそうです。卒業後は「北海道は涼しくて過ごしやすい」と、JR北海道に就職しメンテナンスの仕事をしていました。5年ほど働いた頃、一度、違う世界も見てみたいと思うようになりました。

ちょうどその頃、新聞で岩谷技研の記事を読み「こんな会社があるんだ」と関心を持ち、社員募集中だったので会社見学を申し込んでみたところ、本社と当時は北24条にあった札幌R&Dセンターを見学でき、岩谷社長と直接話すこともできたのだそうです。

その時の岩谷社長の印象はいかがでしたか?

「信じてやり続けてきた人。ものづくりで起業する人ってこういう感じかぁと思いました」

こういう感じって具体的にどんな感じですか?

「いい意味で、世の中の常識から外れているという感じですね」

わかります。宇宙が好き、ものづくりが好きという気持ちにまっすぐな印象ですよね。

 

さて、岩谷社長の話を聞く中で、業務内容は決まっていないことが多くマンパワーでやっているということ、試してやってみて考えていくことを大事にしていること、経歴や才能よりも行動する人が求められているということで「やってみよう」と思ったと言います。

森本さんも大企業にお勤めしていたのに、決まっていないことが多い未知の会社でやってみたいと思うなんて、世の中の常識から外れたタイプなのでは?と思いましたが・・・類は友を呼ぶ? 気持ちが真っ直ぐ純粋で、チャレンジ精神が旺盛な、行動力のある方が自然と集まるのが岩谷技研なのかもしれませんね。

 

仕事もまずは「やってみる」

2022年5月に入社し機械課に所属しています。正直、今はまだ大変だと思うことが多いのだそうです。

「大変なことが苦しいことかと言われるとそれはまた別の話で、柔道の技を覚える時にも、実際に体を動かしていないと覚えられないんです。仕事もやりながら覚えていく、日々自分が前に進んでいると思えています」と、さすが柔道家らしい言葉。

柔道の技も頭で考えているだけでは習得できず、動いていると頭ではなぜできたのかわからないけど、ある瞬間できる時があるのだそうです。柔道も仕事でも考えているだけでなく、手を動かす、行動を起こす、「やってみる」から始めることはとても大切なことなんですね。

 

機械課ではどんな仕事をされているのですか?

及川課長とともに実験の準備を行いますが、人や時間、資金や資材など限りのある中で過不足なく用意するのが「必要なものを全部想像するけど及ばないことがあり難しい」と感じているのだそうです。

他には、キャビンの中に何を置くかの設計もしています。欲しいものは多いが、空間も限られています。新しいものを作り上げることと、安全性を両立する難しさの中で、何を乗せるかの取捨選択が必要です。

例えば、スイッチ一つをつけるにしても位置はどうするか?素材や材料は?と考えることが山ほどあるのだそうです。

 

ストレス解消は「丁寧な暮らし」をすること

環境が変わり、まだ慣れないことも多い中で責任重大な仕事をされているとストレスを感じる時もあると思うのですが、気持ちを切り替えたり、リラックスしたい時にやることはありますか?と、聞いてみると

「洗濯や掃除をしたり、料理をしたりと丁寧に暮らすことを意識すると、日々の生活の中でリラックスできます」との答え・・・よくよく話を聞くと結婚一年目の新婚さん♡「料理は自分の方が得意なんですが、片付けは妻が得意なんですよ」とすっかり惚気られてしまいました。

「江別工場も皆さんが綺麗に使っていて整理整頓されているので、働きやすいです。この美しさを保つためにも片付けは大事ですね」と、確かに汚い所よりも、整ったキレイな環境の方が気持ちよく働けて、仕事がはかどりますよね!

そう言われて、改めて工場内を見回してみると、ここが、これまでは世の中になかったものを、次々と生み出すために、「やってみる」仲間がたくさんいて、風船で宇宙へ行く未来に一歩一歩近づいている特別な場所だということに胸が熱くなりました。

2022年11月、札幌市北区北20条西にあった「札幌R&Dセンター」が、「江別気球工場」に移転してきました!今回は移転直後の様子をリポートします。

 

札幌R&Dセンターとは?

岩谷技研「札幌R&Dセンター」は、高高度ガス気球の研究・開発 (Reseach&Development)部門を本社から移籍して設置された施設です。R&Dセンターは当初、2021年11月1日に札幌市西区二十四軒に開所されました。3階建ての綺麗なオフィスだったそうです。この最初のセンターには、研究・開発を行う12名のスタッフが常駐。25台の3Dプリンターや有人気密キャビンの試験サイトを備えていたとのこと。

その後、より本社に近い札幌市北区に元宅急便センター跡地の物件が見つかり、2022年2月に転居。

こちらの北20条にあった研究施設がこの度、江別市大麻中町にある「江別気球工場」に移転する運びとなりました。

 

江別気球工場内に新たに設置された研究・開発部門

江別気球工場の長い作業テーブルは、以前は3列並んでいたのですが、一番端のテーブルを撤去する形でR&Dセンターのブースが新たに設置されました。

 

パソコンデスクと道具類置き場が整然と並び、工場内の雰囲気が一気に変わった感じです。

 

R&Dセンター作業風景の様子。黒に統一されたデスクと棚、高い天井、むき出しのダクト等がサイバーな雰囲気を演出し、より宇宙感が増したような気がします。

 

みなさん和気あいあいとした雰囲気もありながら、真剣な眼差しで作業に打ち込んでいるのが印象的でした。この作業の一つ一つが宇宙へとつながっていると思うと胸が熱くなります。

 

横から見ると机同士が詰まって見えますが、後ろから見ると一つ一つのスペースがかなり離れているのが分かります。工場の中が広いだけに、余裕を持ってデスクが並べられるようです。

 

取材当時はまだ引っ越してきたばかりでしたので、準備中のデスクもありました。ここに新しくパソコン関連機器が置かれていくのでしょう。

 

細かい部品などがまとまっている引き出し。こういった特殊な引き出しも研究開発施設でないとあまりお目にかかれないかもしれません。

 

こちらは3Dプリンター。江別工場には以前から3Dプリンターがいくつかありましたが、R&Dセンター移転により一気に数が増えました。

 

ちなみにこちらは研究員の橋本さんの机に置かれていた「苔」の容器。これは「苔テラリウム」という、本物の苔を育てる鑑賞容器だそうで、手間もあまりかからずに育てられるため、近年癒やしのインテリアとして人気なのだそうです。

日々たいへんな作業が続く中で、「苔テラリウム」が癒やし効果を発揮してくれることで、さらなる研究作業が進んでいるようです。

研究開発の場と工場が一体化され、今後はますます開発スピードがあがることでしょう。私達が気軽に宇宙に行けるまでもうすぐ!