札幌ドームでの気球実験レポート

2023年8月に札幌ドーム内で行われた実験の様子についてレポートします。

実験現場に到着するとドームの天井についてしまいそうなくらい縦長の大きな気球が設置されていて迫力満点です。札幌ドームのアリーナ面から天井までの高さは68メートルですから、おおよその大きさを想像していただけると思います。この気球は、二人乗りのキャビン「T-10 EARTHER」を成層圏まで上げるための41m級の気球です。

割れるものなら割ってみろ!の気球をあえて破裂させる実験?!

前日に、時間の経過とともにどれくらいヘリウムが抜けるか?確認するためのリーク試験を行った気球に、今回は極限まで空気を送り込んで膨らませ、どこまで圧をかけたら破けるかを確かめるための実験をします。テレビ番組の罰ゲームのように巨大風船を膨らませて突然バーンと破裂させるイメージでしょうか?と岩谷社長に聞いてみると「そんな割れ方はぜったいにしません。割れるものなら割ってみろ!」と強気です。

7月に実験を行った際には割れずに終了したため、今回はもっともっと圧をかけて敢えて破裂させるのだそうです。割れなければそれでいいのでは?と思うのですが、どこまで圧をかけたら破けるか?どういう割れ方をするか?を確認しデータをとることも大切で、下から裂けるはずとの想定通りに破裂してくれるかどうか、ぜひとも確かめたいのだと教えてくれました。

作業されているみなさんのお邪魔にならないように・・・

写真左:伊藤さん 右:橋詰さん

今回の実験の責任者は機械課の橋詰望宇さん。以前、インタビューをした時には「早く自分が主体となって仕事ができるようになりたい」と話されていましたが、あれから数ヶ月、実験を仕切るほどに成長されていました。

また、江別工場で顔馴染みのメイトさんも実験に参加されていましたが、みなさんの作業の邪魔にならないようにあえて話しかけることをしないで様子を眺めていました。

映像を撮影されている唐津さんを見つけ、我々も唐津さんの撮る角度から写真撮影をすれば良い画が撮れると後ろをついてまわっていると、「気球がパンパンになるまで、あと2時間くらいかかりますよ」と教えてくれました。

まずは膨らませた気球の直径などを測り、計算して体積を算出するのだそうです。なるほど・・・球体の体積を求める公式を中学生くらいで習ったような気がするのですが、全然思い出せません。そもそも大きく膨らんだ気球の高さをどうやって測るのでしょうか?

取締役・中臺さんも実験に参加

「今日の実験はね、気球の仕上がり具合の確認のようなもので、設計した人、作った人、関わった全員が答え合わせをするんだよ」と話してくれたのは中臺さんです。

中臺さんは、何度もパイロットとして有人飛行試験に参加していますが「パラシュート、パラグライダー、スカイダイビングなどのあらゆる方法で空を飛んできた中で、気球が一番穏やかだよね」とニッコリ。

私たち取材陣がお会いするのは4月に江別気球工場で行ったロープの結び方講習会以来ですが、その頃から岩谷技研が大きく進化したことの一つとして、岩谷社長と及川実験隊長が熱気球パイロットのライセンスを取得し、各自が必要な技術を磨いて着実に岩谷技研がステップアップしていることです、と教えてくれました。

噂をすればなんとやら?江別気球工場から数人のメイトさん達を連れて及川隊長が登場しました。

江別工場のメイトさんたちも実験の様子を見学

だいぶ大きく膨らんだ気球を見て「あの工場で作った気球がこんなに大きいなんて・・・」と驚くメイトさん達。

「実際に見てもらうとモチベーションも上がりますよね」と及川隊長。できるだけメイトさんにも実験現場を見てもらえるといいなと考えているそうです。

新しいドローンの試運転中だった仲さんが「記念撮影しましょう!」と言って、メイトさんたちの見学風景を撮影していました。気球の高度がどんどん上がっていくので、今までの小型ドローンでは対応できなくなり、より大型の新型ドローンを導入したのだそうです。

今日は、バッテリーの持ち具合の確認を含め試運転です!という仲さんですが、何だかとっても楽しそうです。ドローンのプロペラが起こす風を利用して、頭上に浮く扇風機のように涼ませてくれました。

いよいよ破裂

「今日は実験責任者ではないので、少し気楽ですよ」と言う及川隊長にお願いして、キャビンに乗った気分になって下から気球を見上げてみたいと超近距離で気球を見せてもらいました。

及川隊長に7月の有人飛行で最大到達高度6072mを成功させた時の気持ちも聞いてみたのですが「いや〜 普通ですよ」と、至ってクールです。我々はテレビ番組で放送された雲海の景色に及川隊長が「すげえ!」と叫ぶシーンに号泣したんですけどね〜。

さて、丸々と膨れた気球はあらかじめ取り付けられていた紐と紐の間を測り、直径を確認します。

岩谷社長からここで突然の気球クイズ「気球の重さはどれくらいあると思いますか?」と出題されました。ふんわり浮いている気球なので軽いように見えますが、プラスチックの素材の重さはあると思うので「◯◯kgくらいですかね」と答えると、なんと正解は「18トン」!!

空気にももちろん重さがあり、1気圧(約1013hPa)のとき、空気1Lの重さは1.2gと説明してもらいましたが、頭の中が???でいっぱいになってしまいました。気球には、この気圧が重要とのことで、もう一度理科の教科書を読みなおして、気球のことを勉強した方がいいと思った取材陣でした。

さあ、実験はここからがいよいよ本番。結果は事前の予想通り気球下部のつなぎ目部分から静かに裂け始め、大成功!とのこと。

裂け目部分を入念にチェックする岩谷社長と皆さん。想定通りの実験結果となったようで、新たなデータが取れた岩谷社長は満面の笑みを浮かべていました。

最後に気球解体

最後に気球の解体作業に入ります。気球の下側をぐるりと刃物で裂いていきます。皆さんなんだか楽しそうです。

丸々と膨らんだ巨大な気球は、大きな穴が空いたことでゆっくりとしぼんでいきます。

空気が抜かれていく気球がまるで生き物のようで、切なくも美しい姿だったのが印象的でした。